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雛子との一日

作者 黒谷零次さん



俺には妹がいる。
両親は仕事のせいで日本中を飛びまわっていてほとんど家にいない。
だから、俺は家事や妹の世話などはほとんど俺がしている。妹は幼稚園児だからまあ、しょうがないだろう。

ある夏の土曜日、俺は居間でゲームをしていた。すると、いきおいよく居間のドアが開いた。

「ただいま〜おにいたま」

その開いたドアから飛び出てきたのは俺の大切な妹、雛子だ。

「おかえり、雛子。幼稚園はどうだった?」

「うん、楽しかったよ。それにね、ヒナね、先生にほめられたんだよ」

「何をほめられたんだい?」

「うんとね、おにいたまの絵を描いたら先生がとっても上手だって」

「そうか〜すごいな、雛子は」

俺はそう言って雛子の頭をなでてあげた。

「やったあ!おにいたまにもほめられちゃった。くししし」

「そうだ、今日はケーキを買ってきたんだ。いっしょに食べよう。」

「うん!やったあ」

「じゃあ、かばんを部屋に置いて、手を洗ってきなさい」

「は〜い」

雛子はそう言うとかばんを持って雛子の部屋に行った。

「ふふ、雛子はいつも元気だな」

俺は一人で呟くと台所にケーキを並べ始めた

俺がこんな風に雛子と生活し始めたのは一年ぐらい前からだ。雛子の本当の母親は一年前病気で死んでし
まったらしい、そして、雛子の父親は雛子が生まれてすぐ新しい女をつくってどこかへ行ってしまったそ
うだ。しかし、雛子の母と俺の母が親友同士だったため家に引き取ることにしたそうだ。俺は一人っ子だ
ったため最初は驚いたし、年も離れていたため、あまり話などもしなかった。だが、家で泣いてばかりい
る雛子を見ると俺もほうっておけなかった。そして、今では雛子はかなり俺になついてくれている。そし
て元気に毎日を過ごしている。だが、いつか雛子は気付いてしまうだろう・・・俺達が本当の家族ではな
いことを、そのとき雛子はどう思うだろう。俺や俺の両親と今のまま接してくれるだろうか。

俺には・・・わからない。

俺がそんなことを考えていると雛子が部屋に入ってきた。

「どうしたの?おにいたま。どこかイタイイタイなの?」

「いや、何でもないよ。さあ、ケーキを食べよう」

「うん!いただきます」

雛子はきちんと手を合わせて挨拶をしてからケーキを食べ始めた。

「おいしいか?雛子」

「うん、とってもおいしいよ。ありがとう、おにいたま」

「どういたしまして。お父さんもお母さんもあんまり家にいないけど「サビシイ」って言わないからそのご褒美だよ」

「ヒナはサビシクないよ。だって、おにいたまがいるもん!」

「ふふ。ありがとう、雛子。じゃあ、もし俺がいなくなってお父さんとお母さんがずっといるのだったらどっちがいい?」

俺がそう聞くと雛子は泣きそうになってしまった。

「おにいたま、いなくなっちゃうの?グスッ・・・うえ〜ん」

というか、泣いてしまった。

「ごめん、雛子俺はずっと一緒にいてあげるから泣かないで」

俺はそう言って雛子の涙をハンカチで拭いてあげた。

「本当?本当にヒナと一緒にいてくれる?」

「ああ、本当だよ。だから泣き止んで。雛子は笑っているときが一番かわいいんだから」

俺はそう言って雛子を抱きしめた。雛子は俺の腕の中で泣いた、でも悲しかった昔の泣き方ではなく安心した泣き方だった。

そのまま、5分ぐらい経った頃だろうか、雛子は俺の腕の中でおだやかな寝息をたてていた。多分泣きつかれたのだろう、

俺は雛子をベットに運んであげた。

「おやすみ、雛子。ずっと一緒にいてあげるからな、そう、いつまでも・・・」

俺はそう言うとドアを閉めた。

「むにゃ、おにいたま、ダイ ダイ ダ〜イスキ!」



 


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kuroya6@hotmail.com
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