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あれ………
なにかの気配がする………
そこに誰か隠れているな………おまえはいったい何者………

朝の公園を散歩している途中のことだった………。
園木として………あちこちに植えられている沙羅双樹の梢の陰をみてみると………
誰かが 隠れているのが………みえる………

その………隠れるのが下手なひとは………
私に気づかれているのを察すると………
おずおずと 出てきたよ………

黒を基調にした服を着て………
サングラスをかけて………
紫色の髪を………シニョンにまとめ………

ん?あれは………私………?

その………私に良く似た人物は………
抱えていた白い包みを………私に抱かせる………
中に包まれているのは………

まるで 兄くんの様に髪の紅い………あかちゃん………

私を見つめるその瞳は………吸い込まれるような むらさき………

この 表現は たしか………


私と妹たちの子育て日記 1st Day

作者 James Bartonさん


たっ たっ たっ たっ たっ たっ
リズムの良い足音が響く、

「あにぃ!」
左から声がとぶ、まるで男の子と見紛う容姿をする妹"衛"だ
「お兄様!!」
逆に右から声がとぶ、髪を左右二つに結わえた、いわゆるツインテールにまとめた妹"咲耶"
「兄君さま!!!」
さらに右から声がとぶ、髪をうしろに結わえた、つまりポニーテールにまとめた妹"春歌"

妹といっても 血のつながりはない。
正確には、私を預かってもらっている家、いや、一族か・・・の、娘さんたちだ。なぜか、全員私のことを兄と呼んで慕ってくれる。
まぁ、悪い気はしない。むしろ、親元では、姉に子ども扱いされていたため、このほうがうれしいくらいだ。
一族全体が武術を重んじる一族であるため、彼女たちも体を鍛えている。このジョギングは、その一環。
からだの弱い子や、まだ幼い子、今朝は朝ごはんの仕度をしている子がいるため、これで全員ではない。
あと9人、全員で12人いるわけだが、彼女たちも最も近いもの同士で従姉妹、軽く6親等以上離れる子同士もいるため、血縁の概念が薄い。
私も血縁を考えず、12人平等に扱ってほしいとたのまれているため、考えるのをやめてしまった。

朝霧の中をジョギングを続ける4人、そろそろゴールのクラシカルな洋館が目に入る。
ここで彼女たちと暮らし始めて、はや、3ヶ月か………

ん?家の前にひとりの少女が立っている。
肩までとどくストレートのロングヘア、両サイドの髪をみつあみにまとめた………
可憐か………ひどくあわてた様子だ。

「お兄ちゃん、千影ちゃんが………とにかく早く中へ………」
??めずらしいな可憐がこんなに慌てているなんて………
ジョギングに出ていた4人が顔を見合わせる。4人ともが同じ気持ちのようだ。
まぁ、とにかく中に入るか………

家の中に入るとエントランスのソファーの中央に千影が白い布に包まれたなにかを抱きながら座り、その両脇に雛子と亞里亞がそれを覗き込む形で座っていた。
その周りには残る5人の妹たちが不安げにたっていた。

なんだ千影がなにか動物でも拾ってきたのか………
千影は・・・いや彼女たちは、なんだかんだで情が深いから・・・

近づく4人に千影は「みてほしい………」とばかりに白い布の中身をこちらに差し出す。
半年ほど前に可憐がねこを拾ってきたっけ、そのねこはいまは、「バニラ」と名づけられ、この家を我が物顔で歩き回っている。
千影だと、黒猫とかのイメージがあるんだけど・・・

布の中にいるのは・・・私と同じ紅い髪のあかんぼう?

人間の!!

その、あかんぼうが瞳をあける。
ん?この瞳・・・
「吸い込まれるような、むらさき………これは、ああ………そうか………、千影の瞳をみたときに………思った感想………」
見上げると千影が頬を赤らめている。
まさか・・・ねぇ
さすがに預けられている家のお嬢さんに手を出すほど私は恩知らずではない。
まぁ"彼女"はあんなことを言っていたが・・・

と、おなかの辺りになにやら、さわさわとした感覚がする。
あかんぼうが私と千影のほうへ手を伸ばしている。
私と千影を見比べ、その小さなくちを開く・・・

ぱーぱ まーま

15秒ほどたっぷり時間を止めた後、ゆっくりと、千影の顔を見る、
そこには、女の幸せを感じ、満面の笑みを浮かべた、千影の顔があった。

あ、千影がおもいっきり笑うとこんなにかわいいんだ、千影に兄くんと呼ばれるようになってから結構経つけれども、
初めて見た・・・普段は、フッ、と微笑むくらいだからなぁ

「あー、やっぱり、おにいたまとちかげたまのあかちゃんなんだー」
「兄やとちかげ姉やのあかちゃん、かわいいです。」

ゴト

雛子、亞里亞の無邪気なことばの後に、なにやら、大きな音がする。
振り返ると、四葉がこの世の終わりのような顔をしていた。
四葉愛用のルーペが、足元に転がる。今の音は、この音か・・・

そのとなりで、やはり、この世の終わりのような顔をする白雪、鞠絵・・・鞠絵は足元がふらつくらしく、花穂、衛に支えられている。

咲耶がグローブをはめる。
彼女は、格闘時には自慢の爪が割れるのを防ぐため、グローブをはめている。

可憐が両手でワイヤーをビッと張る。
武器本体は右手の手の甲に隠れているものの・・・
どうも、あのワイヤーがピアノ線に見えるんだよなぁ・・・

でもって、薙刀、スタンガン・・・

もしかして、私がわるいのか?

修羅場な空気を感じ取ってか、あかんぼうが泣き出す。

とたんに、虚ろだった妹たちの瞳に鋭い光が宿る!!

咲耶の陣頭指揮の下、あかんぼうの世話が行われる!!

こうなると男の出番はないな………
母性本能とやらは、偉大なようだ………

「お・に・い・さ・ま、後でお話を聞かせていただきますからね」

いえ、MAGI CASPERも健在なご様子で・・・





あれから約1時間リビングはとんでもない有様だった。

台風一過、死屍累々

まぁ、仕方があるまい。ほぼ、全員がなにかのスペシャリストとはいえさすがに子守りの経験者はいない。
加えてほとんど脅迫ともいえる、あかんぼうの泣き声。これでは、花穂でなくともドジをする。

あかんぼうと一緒に千影が持ってきた荷物の中を衛と花穂がリビングに運び、四葉がチェキし、その中からすぐ必要なものを鈴凛が選別、鞠絵がマニュアル本を読みあげ、それに従い、白雪、春歌ミルクのが準備に可憐が紙おむつの換えに入る。

ところが、
春歌は哺乳瓶を落として割ってしまうわ(ケガなし、予備の哺乳瓶あり)
白雪は粉ミルクをこぼしてしまうわ(全部ではなかったが・・・)
可憐は勢いあまって、紙おむつを破いてしまうわ
花穂は、衛を巻き込んで転ぶわ

フォローと叱咤激励に走っていた咲耶、おしめを換えている間を除き、ほとんど、あかんぼうをあやしていた千影、雛子、亞里亞まで、全員グロッキー状態。

皆さんおつかれさまでした。
12人いても、このありさまなのだから、普通の母親が育児ノイローゼになるのも納得がいく。
まあ、私はほとんどなにもしていないのだが・・・紅茶ぐらいは、淹れてこよう。

紅茶は、少しぬるめ、薄めでっと。全員に紅茶を配り終える。
普段は緑茶同様にストレートで飲む春歌までもが、たっぷり、ミルクと砂糖を入れている。

やれやれといったところか・・・

がしっっ

咲耶の白魚のような五本の指が私の手を掴む!!
「お・に・い・さ・ま、さてお話、聞かせていただけますかしら」

その言葉とともに、他の10人がゆらりと立ち上がる。
!! 量産型か !!

このまま、私は、弐号機のごとく、啄ばまれるのか!!
すまない、千影、名も知らぬわが子よお父さんはね、お星様になるんだよ
って、名も知らぬ?

「兄くんは………何も知らないはずだよ………」

たしかに・・・朝のジョギングから帰ってきたら・・・千影があかんぼうを抱えていて・・・以上?
確かに何も知らないわな・・・

「ちょっと、千影、どういうことよ!!」

「今から………はなすよ………」





「つまり・・・要約すると・・・朝、散歩をしていたら、自分に良く似た女性からそのあかんぼうを押し付けられた・・・と」
「まぁ単純にいえば………そうだね、兄くん………」

「え、え、それって15年後の未来から来たおにいちゃまと千影ちゃまの あかちゃん??」
「待って、そんなこと、あるわけないでしょう!!」
明らかに、最近ケーブルTVでリピート放送された『ママ4』と話をごっちゃにしている花穂を咲耶が止める。

「兄くんのお母さんなら………できるかも………しれないね………」
「うっ」
私の脳裏を腰まで届くブロンドの髪、常に眠たそうな瞳をした女性が、ほほほ と笑う姿がよぎる………ま、自分の母親なんだけど………
ま、あの人ならできるかもな。刻をこえること・・・

「で、この・・・」
「マリアちゃんデス」
で、このみらいちゃん(仮称)を、と、言おうとしたところ、四葉からこの一言。

「四葉がこのあかちゃんの荷物からチェキしまシタ。」
と、一枚の便箋を取り出す。

「四葉、それをこちらに・・・いや、読み上げてくれ」
「わかりました
 "名前は マリアです。必ず迎えにいきます。
  それまで 預かってください。"        以上デス。」

「なんか、私と千影らしからぬネーミングセンスだな。」

この素直な感想に咲耶と可憐が むこう脛を思いっきり蹴飛ばして、答えてくれた。



「で、お兄様この子はどうするおつもり?」
「まぁ、必ず迎えに来る。と言っているものを無碍にもできないだろう。
 今日が土曜日で・・・月曜日が祝日だから・・・その3日間が、限度だろうな。
 平日になれば、亞里亞のところのメイド長さんが家に入るから。隠しようがないし、
 もし、この子が捨て子や誘拐の類なら、ここに匿うのもそのあたりが限界だろう。」

『"3日間………"』

この家は、私たちだけで維持しているわけではない。
金銭的な部分もそうだが、実生活の面でもだ。
平日は、亞里亞のところのメイド長(亞里亞曰く じいや)さんが5、6人のメイドをつれて、家の掃除、洗濯、夕食の支度をしていく。
ままごとのような生活だが、学校のある平日にまで、家のことをする時間はない。

「で、でも、もし未来から来た、お兄ちゃまと千影ちゃまのあかちゃんだったら・・・」
まだ、『ママ4』にこだわっていたか、花穂。
「その場合は、全力で守る。 残念だが、今はそのことが確認されたわけでは、ない。これでいいね千影。」
千影は、不満が残る顔で、うなずいてくれる。理屈は、わかってくれているのだろう。でも、感情的には納得してくれない。



「………マリアくん………あーん………」
千影が、おそらく限界まで頑張ってつくっているであろう笑顔で、離乳食をスプーンですくって、マリアに食べさせている。
普段、表情というものをあまり表に出さない千影にとって、これは大変なんだろうなとおもう。
頬の辺りが、ときどきピクピクいってるし・・・
あかんぼうは、周りの者の感情をよく読みとる。
特に、母親が不安がっていたりすると、その影響を強く受ける。
で、千影がいつもどおりの無表情だったりすると、マリアが不安がるわけで・・・
その不安の解消のため、絶えず千影は満面の笑みを浮かべている必要がある。
顔面神経痛というのは聞いたころあるけど、顔面筋肉痛ってのは、あるのかなぁ・・・

それとは別に、ああ、11組の視線が痛い・・・
そのマリアは、私のひざの上、というか、おなかのあたり・・・
つまり私と千影は、もろ、子供にごはんをあげている若夫婦状態。

雛子、亞里亞の視線は、マリアに向いている。マリアがうらやましいのだろう。
マリアのくちの動きにあわせ、二人のくちが、「あーん、ぱく」と、擬音すら聞こえてきそうなほど、開いたり閉じたりしている。かわいそうなことをしていることは、わかっているのだが・・・

他の9人の視線は、千影にいっている。
咲耶、春歌、可憐、鞠絵といった面々が特に恨めしげな視線を送るなか、1番悔しいのは、白雪なんだろうな。
朝食後、すぐにマニュアル本を片手に、離乳食をつくりはじめ、
いざ、マリアに食べさせようとすると・・・白雪の手からは食べなかったのである。
そのときの落胆振りは、見るに忍びなかった・・・

「………兄さま、千影姉さま、お昼ですの。」
白雪が2人分のリゾットをお盆に載せてくる。
いつもなら、うれしそうに自分の作った料理の紹介をする白雪が、しずかに料理を持ってくる。
・・・健気だな・・・
思わず、白雪を抱きしめたくなる・・・
のだが、ととっと、おなかのあたりにマリアがいるので、そういうわけにもいかない。
「兄さま、兄さまには、姫が食べさせてあげますの。」
どうやら、白雪は、私がリゾットの器を取ろうとして、バランスを崩したと思ったらしい。
普段なら、断る口実を考えていたのだろうが、今の白雪を見たあとでは、そんな気にはならなかった。

「はい、兄さま。あーんですの。」
"あーん"を断ることの多い私に、"あーん"をできることで、少し元気を取り戻した白雪が、リゾットを私の口に運んでくれる。
おなかの辺りのマリアに気をつけてっと・・・ん?
「すこし・・・味がうすいかな?」
「!! ごめんなさい。にいさま。マリアちゃんのごはんをつくったあと、このリゾットをつくりましたの。だから・・・」
ふつう、あかんぼうに塩や、砂糖を大量に使った料理は出さないか・・・
「そうか・・・それで、薄味になっていたのか・・・いや、食べてくれる人に合わせて料理をつくるのは、よいことだよ。ん?」

「だぁ、だぁ、だぁ。」

マリアが白雪に・・・いや、白雪の持っているスプーンを見ている。
白雪の料理・・・正確には、私の食べている料理に興味をもっている?
「これは・・・いけるかもしれない・・・ 白雪、リゾットをもう一口。」
「はいですの。」

うむ、やっぱり、私の口に運ばれる食べ物に興味を示している?

「すまない、このリゾットをマリアに食べさせてみてくれ。」
リゾットを食べていた千影が、きょとんとした顔をした後、
スプーンに、少し、リゾットをのせ、息を吹きかけて、冷ます。
「いや、すまない、千影ではなく・・・白雪が食べさせてみてくれ。」
今度は白雪がきょとんとする。
「でも、姫ではマリアちゃんは・・・食べてくれないですの。」
「すまない。もう一度試してはくれないか・・・」
「・・・はいですの。」
すこし冷ましたリゾットを、スプーンにのせ、マリアの口に持っていく
・・・すこし怯えながら・・・
今度も拒絶されたら・・・と考えているのだろう。

『んんー、むーん、まんま・・・あむ』

「あ・・・たべて・・・くれましたの・・・

 白雪から・・・たべて・・・くれましたの・・・

 白雪も・・・・ママに・・・なれましたの・・・」

「マリアの世話を・・・手伝ってくれるか?白雪・・・ママ」
「はいですの。白雪も、マリアちゃんのママになりますの。」

白い雪が、とけて、緑が芽吹くかのごとく、白雪の顔がほころんでゆく。

つられて、私の顔もほころんでゆく・・・それだけ、魅力的な笑顔だった・・・

「けふっ」

白雪特製の離乳食をすべて平らげ、その上、私の分のリゾットを半分食べたマリアは、軽くげっぷをした後、眠ってしまった。
これで、こちらも少し休めるか・・・

「千影、お前も今のうちに少しねむって・・・」
と声をかけた千影は、こっくり、こっくりと船を漕いでいる。
そういえば、昨日の夜は徹夜でなにかやっていたみたいだからなぁ・・・
その上、朝からのこの騒ぎ、ようやく自分以外の妹にマリアがなついてくれて、緊張の糸が切れたのだろう。
眠くなって当然か・・・

マリアを白雪に預ける・・・
白雪にだっこされたマリアは、おきるようすはない・・・
うむ、大丈夫そうだな・・・

千影を、いわゆる、お姫様だっこで抱える。
今までの様子から、マリアは、私か千影の姿が見えなくなると、不安がる。
眠っているとはいえ、あまり席をはずすわけにはいかない。
千影を部屋へ連れて行って、スグ帰ってこなければならない。
「マリア・・・おとなしく待ってるんだぞ・・・」
と、残る11組の瞳が、なにやらうらやましそうにこちらを見ている。
女性の嫉妬の理由になるというのは、これで結構、快感だったりする。
ちょっと、不謹慎かな・・・マリアの前で・・・



「私の母も、さすがに寝るときはベッドだったぞ。」
"棺"を前にうめくように一人つぶやく、千影の自室で、いや、千影の寝具の前で・・・というべきか・・・
比較的暗めの調度品のそろう千影の部屋、黒塗りの本棚に並ぶ、魔道書。
同じく、黒塗りのスチール棚に並べられた、マジックアイテムの数々。
要冷蔵の薬品やそれらの原材料のための冷蔵庫・・・
まぁ、それはいい。魔術師でもある私の母の自室もこんなもんだ。

しかし、ベッドがわりに"棺"である。
千影が寝過ごした場合、まず、間違いなく。私が起こしに行く。
以前、咲耶が寝過ごしたとき、花穂を起こしにやったら、
額にたんこぶをこさえた咲耶が、これまた額に たんこぶをこさえた花穂を小脇に抱えて、
「どうして、私のときには、お兄様が起こしにきてくれないの!!」
抗議してきたが・・・

ムリを言わないでほしい、千影の棺の蓋は結構重く、年少組みの力ではまず開かない。
棺の蓋を開け閉めするために、専用のゴーレムを千影が用意しているのだが、
これに命令を与えることができるのは、千影と私だけ・・・
他の妹たちは、魔術を使えないからな・・・
加えて、その中に眠る千影は、恐ろしく寝相がよく、組んだ両手を胸において眠っている。
まるで、埋葬されているかのごとく・・・
ダメだ・・・妹たちに千影を起こしになんて・・・やれない・・・
わかってくれ、咲耶。

「でも、私を起こしに来てくれない理由になってない」
咲耶後日談

でもって、今回は・・・
千影を着替えさせ、棺に横たえ・・・

「兄くん まぶしい………棺の蓋を閉めて………もらえないか………」

ゴーレムに命令するのも億劫とばかりに千影が言う・・・

「わかった・・・」

ゴーレムに手伝わせ、棺の蓋を閉じる。
眠っている間、悪霊どもから、身を守るためとはいえ・・・
千影を棺に入れるのは正直つらいのだけれども・・・
"埋葬されるわけではない。埋葬されるわけではない。埋葬されるわけではない。"
呪文のように頭の中で繰り返し、繰り返し・・・

千影の姿が棺の蓋で見えなくなっていく・・・
"おやすみ"といってやるべきなんだろうけれども・・・

正直、ムリ・・・いや、マジで・・・



「あ、お兄様、やっと、降りてきたわね。」
3階にある、千影の自室からリビングのある1階へ降りてくるなり、咲耶が、百万ドルの笑顔で待ってましたとばかりに話しかけてくる。
咲耶のこの笑顔・・・魅力的ではあるのだが・・・
この笑顔のあとは、だいたい困ったお願いをしてくるんだよなぁ。

「お兄様、私たちも、マリアちゃんのママになりたいんだけどな。その方が、千影やお兄様も楽になるだろうし・・・」
たしかに、ありがたい申し出ではある。
私と千影、白雪だけでは、育児には限界がある。
おそらく、白雪と同じ方法でマリアに懐いてもらおうという考えなのだろう。
「・・・たしかに・・・でも、今、食べたばかりで、マリアは、すぐには、離乳食を食べられないだろう。
 次は・・・ミルクの方がいいんじゃないか?」
「さっすが、お兄様。わかってるぅ。」
と、咲耶は後ろ手に持っていた2本の哺乳瓶を取り出す・・・

まさか・・・私に哺乳瓶でミルクを飲んで見せろ・・・と?

「あと、兄上様のお世話をしている子を受け入れてくれるようですので・・・」
鞠絵が、両手に抱えているのは・・・老人介護用、成人向けオムツ・・・"ア○ント"

鞠絵の慈母のような笑顔がまぶしい・・・
鞠絵・・・元気になってくれて、兄上様はうれしいよ・・・

「・・・・・哺乳瓶で、ミルクを飲むのは、譲歩する・・・
 だから・・・オムツはカンベンしてくれ・・・」

まだ、1日目・・・なんだがな・・・



「ねーん、ねーんー、ころーりーよー、おこーろーりーよー。
 まりーあはー、よいこーだー、ねんねーしなー♪」

・・・うあつ。まづい、私が眠ってしまうところだった。

もう、既に夜の8時を回っている。
結局、今日1日、哺乳瓶からミルクを飲むのとアテ○トを燃やすのに費やした気がする・・・
哺乳瓶からミルクを飲むことがあんなに大変だとは思わなかった・・・
あかんぼうのころは、誰でもできていたこと・・・なんだろうけれども・・・

でもって、ここは、私の自室のベッドの上、マリアをまんなかに、千影とで、川の字になって寝ている。
この家を用意された時、なぜか、私には、セミダブルのベッドが準備されていた。
なにも、こんな大きなベッドでなくても・・・と思ったのだが、雛子、亞里亞が、よく、一緒に寝てほしいと・・・いや、
全員、万遍なく、よく、一緒に寝てほしいと言ってくるので、結構フル活用している。

千影が、子守唄でマリアを寝かしつけているところなのだが・・・
昼間の疲れに加え、千影の穏やかな歌声の合体攻撃にあえなく撃墜されそうになる。

「ふぅ………」
「おつかれさま、千影ママ。お前も早く休め。
 また、すぐにマリアが目を覚ます。」

「………兄くん………ごめん………」
「???なんだ千影………突然あやまったりして………」
「私が………かんがえなしにマリアを預かってきたから………
 兄くんは、しなくてもいい苦労を……… いや、それだけじゃない!!
 私たちとのこの生活も、兄くんにとっては、いい迷惑………
 いつも、誰かがまとわりついて、 私が魔界に行くときにつきあってくれているのも、いやいやで・・・
 もともと、私たちは、本当の兄妹じゃな………いむ」

「千影・・・マリアが起きてしまう・・・」
千影にしては、めずらしく早口になったところを、彼女のはなをつまんでしゃべるのをやめさせる。

「それとな・・・あまり、この兄を侮るなよ・・・
 マリアの件だが・・・
 私とて、いきなり今の姿で生まれてきたわけではない・・・
 乳飲み子のころは、おそらく、盛大に両親に迷惑を掛けたはずだ。
 今度は、私が迷惑を掛けられる番だろう。 お前たちだって、そうだったはずだ。」

千影が、あ、という、かおをする。

「それと、この生活の方は、いつでもやめていいといわれている。
 おまえたちとの生活は、好きで続けている。
 確かに、私たちは、兄妹として生まれなかった。だが、お互いが選んで兄妹になった。
 おまえたちが、私を兄と呼んでくれる限り、 私は、おまえたちの兄でいられる。」

千影の髪をなでる。
まるで、喉をなでられる猫のように、心地よさそうにしている。

「あと、魔界に行くときは、一声掛けろ。
 心配になる・・・
 当分おまえたちの側にいるつもりだ・・・
 いや、たいくつになったら・・・ここから出て行ってしまうかもしれないぞ・・・だから・・・」
「ああ………兄くん………うでによりを掛けて………"迷惑"を、用意しておくよ………」
「ああ、期待している。オヤスミ・・・千影・・・」

めずらしく、千影に素直にオヤスミを言えた気がする・・・

この騒ぎ・・・まだまだ・・・つづくんだろうな・・・



あとがき

あ、どうも、頭で物語を考えたりすることはあっても、
実際に文章にするのは初めてです。
でもって・・・
「お兄ちゃん、可憐もおはなしに、でたいです。」
「お兄ちゃま、ドジだけど、花穂のこと見捨てないでね。」
「あにぃ、もっと、ボクと一緒にあそぼうよ。」
「お兄様。私のこと、もちろん出してくれるわよね。」
「おにいたま、おはなしにだしてくれないと。
 ヒナ、さびしいさびしい病にかかっちゃうよ。」
「兄上様、おはなしのなかだけでも、せめて、お側に・・・」
「にいさま、姫の料理をたべて、がんばっておはなしを書いてほしいですの。」
「アニキ!!あったかーい出番。よろしく!!」
「フフフ、兄くん」
「兄君さま、おはなしの中でも、兄君さまをお護りします。」
「兄ちゃま、いつでも、チェキです!!」
「兄や・・・くすん」

結果・・・話が前中後編に分かれてしまいました。
「中編へつづく!!」(cv.キートン 山田)
と、いうことで・・・


James Bartonさんへの感想はこちら
nmr_ssm@yahoo.co.jp
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