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「あれ?ここにもない。おっかしいなあ?」

さっきからやたら耳の中がゴロゴロするので、家中を歩き回って耳かきを探しているのだが、
洗面所や居間の小物入れ、タンスの引きだしなど、どこを見ても一向に見当たらない。

「(やっぱ家族で使うのとは別に、自分用の耳かきを持っておくべきかもな・・・。)」
食器棚の引き出しを探りながら、そんなことを考えていた。

ゴロゴロ・・・。

「うあ!またか。」

耳の中に何か生き物がいるんじゃないかってくらい、イヤな音が響く。
しばらく放置しすぎたか・・・。

「兄君さま、何かお探しですか?」

夢中になって探している傍に、春歌がたずねてきた。いつも年少組の耳掃除をするのは春歌と咲耶だから、
何か知っているかもしれない。

「耳かきを探してるんだけど、どこにあるか知らないか?」
「耳かき・・・ですか?それでしたら、咲耶ちゃんが使用中ですよ。」
「咲耶が?」
「ええ。あちらで。」

春歌が目を向けた方を見ると、ここから少し離れたリビングのソファの上で、耳かき片手に寝そべった状態で
耳掃除をする咲耶がいる。さっきは見かけたときは、ただ横になってテレビを見ているだけだと思っていたが。

それにしても、横になった状態で耳掃除とは・・・。
起用なやつだな。

すると、咲耶がこっちの様子に気づき、

「え!?あ、ヤダお兄様!!いつからいたの?」

と言って、照れた表情を浮かべながら突然跳ね起きた。どうやら、寝そべって耳掃除をしていたところを見られたのが
相当恥ずかしかったらしい。

「いや、耳かきを使いたいんだけど、まだかかりそうか?」
「あ、これ?ごめんね。もうすぐ終わるから・・・。」

と、少し慌てた様子を見せ、ソファに座りなおした。俺は結局、咲耶の作業が終わるまで待つことにする。
さっきまでいた春歌はリビングから出て行ったので、咲耶と二人きりの状態になった。

 


膝枕

作者 インディゴさん


「終わったわよ?お兄様。」

ようやく耳掃除を終えた咲耶が、声をかけてきた。

「ん。じゃあ貸してくれ。」

よっこらしょといった感じで、手を伸ばして耳かきを受け取ろうとするが、

          ヒョイ

「・・・・・・・・・・」

??
何故か耳かきが自分の手から逃げていく。
もう一度受け取ろうとするが。

          ヒョイ

「・・・・・ちょっと?咲耶?」

耳かきが逃げていくわけではなく、耳かきを持った咲耶の手が逃げていくのだ。
何やらニヤニヤと笑みを浮かべている。
さらに手を伸ばして、奪い取ろうとするが、

          
          ヒョイ

「・・・なんのマネでしょう?」

意地悪くからかう妹を疎ましくにらむ。どこか咲耶は嬉しそうだ。

「今日は私がやってあげる。」
「は?何を?」
「何って、決まってるじゃない。お兄様の、み・み・そ・う・じ。」
「バカ。いいよ、自分で取れるから。」

冗談じゃないって・・・。そんなみっともないマネできるか。

もう一度、耳かきを奪おうとするが、

「あらそう?なら、これ貸してあーげない。」

そう言って、耳かきを背中の方に持っていく。何度も言うが、一家に耳かきはこれしかないのだ。

「マジっすか?」
「マジよ」

ゴロゴロゴロ・・・。

耳がしつこく悲鳴をあげる。やはり長いこと放っておいたから、相当たまっているんだろう。

「ほーらぁ、お兄様、遠慮しないで。大丈夫よ、今はみんな出かけちゃってていないから。」

ソファに腰掛けて、ポンポンと自分のひざをたたく咲耶。やっぱ他人の耳掃除するときは、コレだよなあ・・・。
でも・・・そりゃまずいでしょ。いくらなんでも、ねぇ?

ゴロゴロゴロゴロゴロ

俺の耳の中で再三カミナリがなっている。これ以上放置すると何も聞こえなくなりそうだ。

「じゃあ、お願いします・・・。」
「はい、どうぞ。」

結局観念してしまった。横になって、座っている咲耶の膝の上に頭を乗せる。
いわゆる「ひざまくら」ってやつだな。
しかし、妹に膝枕をしてもらう兄って、世の中で俺くらいだろうな・・・。

「うふふ。どうしたの、お兄様?顔が真っ赤よ?」
「うるせ、とっととやっちゃってくれよ・・・。」
「はいはい」

今、俺はソファーの上に横になり、咲耶に背を向けた状態で膝枕をしてもらっている。
やがて耳かきの先端が、ゆっくりと耳の中に入ってきた。痛くしない様に気遣ってくれているのがわかる。

「どう、お兄様?痛くない?」
「ああ、大丈夫・・・」

目の前には咲耶の顔。普段はあんまり意識してないけど、相当かわいいよな。「かわいい」っていうより、
「きれい」って方が合ってるか。そりゃもう、雑誌やテレビでよく見かけるアイドルとかよりもずっと。
それと、香水だろうか?さっきからいい香りがする。
俺は理性を総動員させて耐えるが・・・。


これは・・・・。




確かに・・・・。




心地いい・・・・。


「・・・お兄様、ずいぶん長い間放っておいたでしょ?すごく取れてるわよ?」

しばらく黙って作業をしていた咲耶が声をかけてきたので、我に返った。
そんなに汚れてたのか。結構恥ずかしい・・・。

「わかるか?なんか自分でするのってメンドくさくてさ。」
「もう、こんなんでよく聞こえてたわねぇ?」
「でも、上手だな、咲耶。」
「そう?ありがと。」

咲耶は少しもイヤな様子を見せずに、丹念に耳掃除を続けてくれる。
そういえば、いつも雛子や亞理亞にしてあげてるもんな・・・。

あらかた取り終えると、咲耶は耳かきの逆側の綿の部分を使い、仕上げにとりかかった。
そして、ポン、と俺の頭をたたく。

「はい。じゃあ、次は反対ね」
「はいはい」

言われるがままに、体の向きを変える。心なしか、片方の耳がすっきりしているな。
そして反対の耳も同様に、丹念にきれいにしてくれる。
ただ、あまりにも気持ちよかったので、少しずつ睡魔に襲われてきていた。

                  ・
                  
                  ・
                  
                  ・
                  
                  ・

しばらくの間、二人を沈黙が包むが、やがて咲耶が耳かきを動かしながら、声をかけてきた。

「ねえ、お兄様?」
「ん?」

熟睡する一歩前まできていたので、目を閉じたまま聞き返す。

「たまには・・・ね」
「?」
「こうやって、私に甘えてもいいのよ?」

いきなりの咲耶の発言に、少し驚いて目を開けた。

「(なんだよ?急に・・・)」

妹に甘えるってのは、兄としてどうだろうか??

「それは・・・いくらなんでもマズいだろ?それに今だって、咲耶に甘えてるつもりはないぞ?」
「でも、私たちはいつもお兄様に甘えてるでしょ?そうなると、じゃあ、お兄様は誰に甘えるの?
ってことになるじゃない?」

確かにいつも、兄として、頼っちゃいけない、甘えちゃいけないって思ってきた。家では失敗したとき、
落ち込んだときに、グチを言える相手、慰めてもらえるような相手はいない。そんな環境の中で育って、
「自分がしっかりしなきゃいけない」って考えるようになった。
そういう考えが自分自身を苦しめているってことも、わかっているつもりだけど・・・。

だから歳が一番上ってのは、時に苦痛なんだ。

こういった部分に、俺と1番歳が近い彼女にも感じるところがあったのだろうか。咲耶は小さな頃から、
自分はお姉ちゃんだから、妹の面倒はしっかり見なくちゃいけないって、張り切っていた。
だから彼女なりに、妹たちを優先させてきたことで我慢してきたこと、抑えてきたことがあるのかもしれない。

「たまにね、「お兄様、無理してる」って思って、見てられない時もあるのよ?」

咲耶はそう続けた。
自分の中にある咲耶と似たような気持ちを、いつの間にか察してくれていたのか。

「心配すんな。」
「え?」
「みんなに甘えなくても、俺はちゃんとやっていけるよ。」

「兄貴だからな」って続けようとしたが、その言葉が彼女をさらに心配させるだろうと思ったのでやめた。

「もう、強がっちゃって・・・」
「でも、ホンネだぞ?」

話を続けながら、咲耶は丹念に耳の中のよごれを取ってくれる。最初は抵抗もあったが、今ではすんなりと
彼女の純粋な優しさに甘えてしまっていた。

「はい、終わったわよ」
「うん。サンキュ」

少しなごりおしい気もしたが、咲耶のひざの上から顔を起こし、ソファに座りなおす。
が、次の瞬間、咲耶は俺のひざの上に後頭部を降ろしてきた。

「おい、こら!何やってんだ。」

さすがに慌てた。これは「ギブアンドテイク」ってやつか?なんかちがうか・・・?
ムリヤリにでも咲耶の頭を起こそうとするが、

「えー。いいじゃない、たまには。」
「だめだ。咲耶だけ特別扱いするわけにはいかないんだって!」

咲耶は俺の膝を両手でつかんで放すまいとする。
別に膝枕するのがイヤなわけじゃない。ただ、ひいきになるんじゃないかって考えてしまう。
万が一妹たちにこんなとこ見られたら、他の11人にもしてあげなきゃってことになる。
少し考えすぎかもしれないけど・・・。

しかし当の咲耶は、「特別扱い」という言葉に敏感に反応した。
膝をつかんでいた手を放して、いきなり起き上がり、

「あー!お兄様ったら、そーゆーこと言うんだー!?」

と、勢いよく反論してきた。

「(なんだってんだ・・・。)」

「何がだよ・・・」
「じゃあ聞くけど、雛子ちゃんと亞里亞ちゃんに対しては、特別扱いって事にならないのかしら?」

「(そりゃ、彼女らはまだ小さいから・・・)」
と、反論しようとしたが、俺に話すヒマを与えてくれなかった。

「ここで雛子ちゃんか亞里亞ちゃんと一緒にいる時は、いっつも膝枕してあげてるわよねぇ、お兄様?」
「・・・・・・・・」
「それだけじゃなくて、なでてあげたり、頬ずりしたり・・・」
「・・・・・・・・」
「そうそう。あと、ホッペにキスしてあげてたり・・・」
「それはしてない。」

とりあえず冷静に否定した。雛子と亞里亞は素直でなおかつ純粋に甘えてくるので、
こっちも素直に受け止めているだけなんだけど・・・。

「とーにーかーく、私だって、二人みたいに膝枕してほしいの!!」


そう主張された後、しばらくの沈黙が続いた。
そして、「ふうっ」とため息をつくと、

「今回だけだぞ?」

と念を押すようにつぶやき、それに対して咲耶は

「はぁい!」

と、威勢のいい返事を返し、再び後頭部を俺の膝の上に降ろしてきた。
現金なやつ・・・。

「わあ・・・お兄様の膝、やわらか〜い。」
「硬い膝なんてどこにある。」

照れ隠しのようなセリフをはきながら、真上から咲耶の顔を見下ろす。

「私もしてほしいな・・・。」
「何を?」
「私にも、ナデナデしてほしいなあ・・・。」
「あいよ・・・。」

そうやって、真下から見つめられながらお願いされると断れない。
仕方ない、とばかりに、咲耶の頭をやさしく撫でてやった。
髪が指の間にからまらないように、そこら辺は気を使いながら。         

「ふふふ・・・うれしい。」
「今回だけだぞ?」

咲耶は目を閉じたままだが、ものすごく嬉しそうに微笑んでいる。
それはいつもの大人びた感じとは違う、何の屈託もない笑顔を浮かべていた。
そんな表情を見せられると、こっちも口元が緩んでしまう。

「あーあ・・・、ずっとこのままでいたいなあ・・・」
「それは勘弁してくれ。」
「でもなんだか、お兄様も嬉しそうなのは気のせいかしら?」
「バカ。」

明らかに照れ隠しとわかる俺の一言が面白かったのか、咲耶はクスクスと笑う。
しばらくの間この状態が続き、咲耶はやがて静かに寝息をたてて眠ってしまっていた。
このままでは自分も動けないので、俺も彼女を膝枕させた体制のまま、眠ってしまったんだ。

不思議なことに、こうして二人でいる間、誰もリビングには入ってこなかった。
この光景を見られることが、一番心配だったんだけど・・・。
みんな気を使ってくれたのか?そんなわけないか。



「あ〜にチャマ!!」
「ん?」

その日の夕食後、廊下を歩いている途中で四葉に呼び止められた。
手にビデオテープらしきものを持っているのが気になるが・・・。

そして、その物体を高々と掲げた。

「ジャジャーン!!兄チャマ?コレ、なんだかわかりマスか?」
「ビデオテープだろ?」

俺がそう答えると、「チッチッチッ」と言って人差し指を振った。
ちがうのか?

「ただのビデオテープじゃあ、ないんデス。この中にはデスねえ、昼間に兄チャマと咲耶チャマが、
 イチャイチャなでなでプニプニしていた一部始終が入っているんデス!!」

マジか・・・???
ていうか「プニプニ」ってなんだよ。

「クフフぅ、迂闊でしたねぇ?兄チャマ?」

突っ込みどころ満載だったが、これは結構ヤバイ状況だ。
こいつ、天井裏から撮影してたな・・・。

「さあて、これをみんなの前で上映したら、どうなりマスかねぇ?」

「してやったり」、といった感じで笑みを浮かべる四葉。
もし上映されたら、結構めんどうなことになるな。

「で、どうしろというんでしょう?」
「さっすが、ものわかりがいいデスねぇ?兄チャマ。」

完全に兄としての威厳っをほっぽりだし、仕方なく四葉に従った。
すると四葉は急にモジモジして、顔を赤らめながら

「その・・・デスね、四葉にもぉ、咲耶チャマみたいにしてほしいデス・・・。」

と言って、手を前で組み、肩で俺の胸を突いてきた。
もう少し過激な要求をされると思ったので、内心ほっとしていた。

「クフフぅ。してくれたら、テープの事は・・・考えてあげてもいいデスよ?」
「わかったよ。しょうがないな、四葉は。」

軽く笑顔を返しながら、仕方なくそう返事をした。
こういう脅迫まがいのやり方(今回に限ったことじゃないが)は教育上よくないので、
いつもなら叱るところだが、多分うらやましかったんだと思うので、今回はあえて許そう。

が、次の瞬間、

      バッ

「ふえっ!?」

四葉の手から、ビデオテープがスルリと抜けた。ほんの一瞬の間に。

「へえ。四葉ちゃん、いいもの持ってるじゃない?」
「さ、咲耶チャマ!!?」

いつの間にか、突然背後から咲耶が現れ、四葉からビデオテープを掠め取ったのだ。

「あわわ。あ、あの、それはデスねえ・・・」
「私とお兄様の愛の光景を記録に残してくれるなんて、さっすが四葉ちゃん、お手柄ねぇ?」

そう言って、四葉の頭をグシャグシャとなで始めた。
いや、なでているというより、乱暴にこねくり回している。
口調はほめているように感じるが、目が笑ってないな。

「じゃあ、ありがたぁぁぁぁくいただいておくわね。ありがとう。」
「あ、あう・・・。」

勝ち誇ったようにビデオテープを奪い取って去っていく長女。
後には髪をボサボサにされ、呆然とする少女が残る。
手を伸ばして咲耶を引きとめようとするが、すでにいない。

悲惨なやつ・・・。

「ちぇぇぇぇぇきぃぃぃぃぃぃ!!」

そして特有の奇声を発し、俺の胸に飛び込んできた。

「あ〜ん!!あと少しで兄チャマとイチャイチャできたのにぃぃぃぃ!!!」

なんちゅうか、悲惨を通り越してみじめに思えてきた。
そこまで潔く言われると、返すことばもなくなるって・・・。

結局この後、誰にも話さないという約束と引き換えに、俺の部屋で四葉にも同じようにしてやった。
すごく喜んでくれたから、まあ、いいんだけど。
今回のことで、耳掃除は定期に欠かさず行おうという教訓(?)を得ることに・・・。
やれやれ。


                       あとがき

お久しぶりです。インディゴです。今回のSSを書き上げての率直な感想は、「ああ・・・長かった」って感じです(笑)
過去3作品の中で、一番時間を費やしました。リクエストがあった咲耶のSSなんですが、結構苦労しましたね。
今までの作品の反省も生かして書いたんですが、いかがだったでしょうか?少し前半の咲耶がしおらしくなっちゃったかも。
次回書くときは、まだ作中に現れてない、千影、鞠絵あたりも出演させてみようかと考えています。
率直な感想、意見などもいただけるとうれしいです。


インディゴさんへの感想はこちら
naoki-ai@mx4.ttcn.ne.jp
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