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   海神航とその妹たちについての近況報告

 『 ターゲットbPこと海神航は、エリート大学不合格に対するショックを忘れたわけではないようだが、妹
  たちとの交流により大分その気持ちも薄れてきた模様。また休日ともあれば妹たちとともに時間を過ご
  すということも目立ち始め、兄としての自覚が芽生え始めたのではないかという疑問を感じずにはいら
  れない。
   そんなある日、bUこと最年少の雛子が失踪する。どうやら目的は買い物にあったらしいが、何を買う
  つもりであったのかは不明。当日の日没前には無事帰宅。

   現在、学校内にてターゲットを捜索中。発見し次第報告を続行する。

   以上、報告おわり 』


 


シスタープリンセス The animation
第5話 I am 13 !!! She is 13 !!? 〜不思議な女の子〜

作者 D、B、N、TIさん


                        ― SCENE1 眞深美、奮戦す ―

「ハァ…ま、こんなもんかな…」
 星見ヶ丘西学園中学部校舎の屋上に座り込みながら、眞深美(まみみ)は一息入れることにした。
 頭の両端で結わえている明るいルビー色の髪を風に靡かせて、気持ちよさそうに伸びながら横になる。
 横になると同時、大きなアクビを1つ噛み締めた。
「んっ……くぁ…よく考えたら、今日も朝早かったからなぁ…」
 眠い理由を本人が直々に教えてくれた。
 今日彼女が起きた時間は約4時、寝たのが深夜2時だから、2時間ちょっとぐらいしか寝ていないことになる、眠いわけだ。
 だがここで寝るわけにはいかない、メールでターゲットを『捜索中』と書いてしまった以上、探さないわけにもいかない。
 眞深美は重くなってきた瞼を擦り、頑張って起き上がった。かなりやる気なさそうに見える。
「フゥ…それにしても何処いっちゃったんだろうな…航さん」
 

 

  海神航とその妹たちについての近況報告

『2時40分
 空港到着』
『3時
 現在、客船ターミナル行きのバス内、ターゲットbQ、5、6と同車に搭乗することに成功、これから約1時間後に到着の予定』
『3時半
 30分前から沈黙状態、動きがあり次第連絡』
『4時
 沈黙解除、問答の後に突如叫びだす、前にいた運転手が超ビビる、同時刻に客船ターミナル到着』
『4時14分
 プロミストアイランド到着、8分後にウェルカムハウス到着、その後掃除、効率が悪い』
『7時43分
 掃除終了し夕食、全てコンビニ弁当、bQが持参したパスタはシーフード、何故ミートソースにしないのか?』
『8時
 bRが満身創痍ながらに合流、問答の結果またもや叫びだす、その後歓迎され中へ』
『9時
 bU爆睡、良い子
 残りのメンバーはTVを繋ごうとする』
 『11時5分
 TV繋がる』
 『12時
 消灯。部屋がまだ決まっていないため、全員ソファーで寝る、あの姿勢では絶対に首を痛めるだろう』


 これは自分がこの島に初めてやって来た時に書いた報告書の履歴である。
 一片の間違いもない的確な報告だというのに、返ってくる返信メールには『真面目にやれ』の文字ばかり、眞深美は未だにそれが納得できなかった。
「そりゃあ、事態が深刻だってことはわかってるけど…」
 もう少し優しく言ってくれたっていいじゃないか、眞深美のその愚痴はいつものことだった。
 この愚痴を言う時は大抵困っている時だ。困っているという内心を愚痴で隠すのは彼女の悪い癖だった。
 今回も例外ではない、眞深美は困っていた。
 中華饅が食べたかったのだ。
 東四丁目の一角にあるベンチに座り、膝にはさっきのモバイルを置いていた。目の前には、饅頭のようなおっさんが経営している屋台が長い列を作って仁王立ちしている。
 甘いの辛いの酸っぱいの、おいでとでも手招きしているような匂いが嫌でも鼻に入ってきた。最後に食物を口にしたのは確か一昨日の朝、気にしたくなくても気にしてしまう。
 彼女はスカートのポケットから財布を取り出した。饅頭の値段は1個200円、財布の中には7円入っている、193円足りない。
 グゥゥ
 駄々をこねる腹の虫を無理やり押さえ込む。我ながら情けない。思わず大きな溜め息が洩れてしまう。
 っというか、金銭問題くらい考慮してこいよ…
「あ〜ぁ、誰も自宅に帰ってなかったなぁ…この島小さそうに見えて広すぎよぉ、皆さぞや帰ってくるの遅いんだろ〜なぁ、そりゃそうだよ、航さんの妹だもんなぁ…」
 誰にも聞こえない程度の声でひたすらブツブツと愚痴をこぼすが、気になるのがその内容だ。妙に海神の兄弟のことを知っているような口ぶり。
 眞深美はそのまま膝のモバイルに目を戻して、慣れたブラインドタッチでキーを叩く。
 『完全に見失いました。どっこにもいましぇ〜ん!?』
 挑発もここまで来れば立派なもんなのだろう。このメールを見たときの相手の気持ちなんて考えもせず、送信キーをクリック…………っと、ちょっと待て!
「…発見!?」
 眞深美は目を見開いた。目の前には紙袋に大量の肉まんを詰め込んで帰路に着く衛の姿があった。
 学校帰りに買い食いか!?自分だってまだしたことないのに!?っていうかあんなに食べて太らないのか!?自分がこんなに腹空かせているというのに!?待てよ、ということはだ、彼女はずっとあそこに並んでいたということだよな?気づけよ私!?
 散々の自問自答に悶絶しながらも、眞深美はメールを打ち込み送信ボタンを押す。
 『完全に見失いました。どっこにもいましぇ〜ん!?というのは嘘、bSを発見、追跡します』
 どうでも良いが、さっきまでの文章の削除くらいしたらどうだろうか。これではさっき以上に相手を舐め腐った態度になるような気がするのだが…
「待て待て待て〜い…」
 もちろんそんなことを気にする彼女ではない、ルンルン気分で走り去る衛の後を抜き足差し足忍び足っぽく追いかけていった。


 衛は兄妹の中でも特に運動神経の良い子だ。下から数えて6番目にあたる子で、今年から中学校になったばかり。
 初対面であるはずにも関わらず、眞深美は妙に衛のことについて詳しいようである。
 今現在衛は五丁目、つまり頂上のかしのき公園ベンチでさっき売店で買った中華まんを食べていた。
 ここから見てるとますますムカつく、あ、いや、腹が減る。
 食事中の人を、腹を鳴らしながら草の陰から眺める少女…なんだかお金を恵んであげたくなるシチュエーションだ…
 そんな時、衛が食べようと取り出した肉まんの内の1つが、袋からこぼれてしまった。肉まんは落っこちるとコロコロと転がり始め、草むらの方、つまり眞深美の方へと転がってきた。
「ああ〜…」
 衛はちょっと残念そうに肉まんを見送った。
 肉まんはコロコロ転がり、肉まんコロリン。どんどんこちらへやってくる。
 眞深美はその距離と比例しているかのごとく目を見開いていった。
 肉まんが近づくどんどこ近づく。それと一緒に眞深美の目玉がどんどこ開く。なんでか知らないが両手がそちらへ伸びていく。
 伸びる腕、そして肉まんは…

 パシャン!
 水溜りに突っ込んだ…
 眞深美は青ざめた。

 それでも肉まんは転がる、眞深美の目玉はもう大きくならない。なって溜まるか!
 まるで策略のごとく進路を変えない肉まん。そして眞深美が隠れている草むらの真ん前でコロリと腹這いになった。
 ……………………………
 …なんだこの展開は?
 衛が仕組んだのかと思えてしまいそうだが、当の衛は遠くのベンチで残りの肉まんを美味しそうに頬張っている。
 そうだ、あのベンチとここの距離はこんなに離れているんだ。なのになんでわざわざここまで来るんだ!?
 ここからでもわかる、肉まんはまだ温かい。
 砂まみれの泥だらけだけど、さりげなく湯気が立ち上がっている。
 この位置からなら匂いが届く。
 タバコの浮いていた水溜りに突っ込んでいたけど…
 ……人馬鹿にしてんのか?眞深美は無性に腹が立ってきた。そしてそれの分だけ腹が減ってきた。
「うあぁ…」
 思わず声と生唾が出てくる。そんな自分が情けなさ過ぎて涙まで出てきた。
 『貴方は丸2日何も口にしていません。そんな貴方の前に肉まんが落ちていました。さあ、貴方ならどうする?』
 ブラインドタッチでそんな台詞をパソコンに打ち込み、しかも送信までをする。ちなみに件名は『究極の選択』、こんなことを究極にするなよ…
 自分は断食なんてするつもりはなかったんです。だというのに、こんなところに肉まんが落ちてるんです。どうしろっていうんですか!?
 誰とも言わず勝手に怒り出す。
 次の瞬間、肉まんの下へ1匹のドラ猫がやってきた。ドラ猫は前足を肉まんに伸ばそうとした刹那!?
 ビュッ!?!?
 草むらから眞深美が手を伸ばし、グッチャングッチャンになっている肉まんを鷲掴みにした。
 時が…止まった。少なくとも眞深美の時は…
 驚いて猫は逃げていったが、眞深美の心からは喜びなど出てこない。っというか、出てきたらむしろヤバイ。
「うっがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やっちまったぁぁぁぁぁぁ!!」
 無意識のうちに奇声を上げて草むらから飛び出す眞深美。
 突然の怪生物の襲来に、遠くのベンチに座っていた衛が目茶苦茶ビビる。
 落ちていた肉まんを手にした女の子が、鳴きながら草むらの中から飛び出してくる。どういうシチュエーションだ、一体。
 眞深美は不甲斐なさのあまり轟音を上げてかしのき公園から走り去っていった。衛は、彼女を見るやいなや逃げ出していく親子連れを呆然とした目で見送るしかできなかった。
「………何?」
 まさにその通りだ。
 そんなことなど知らぬといった感じに、眞深美は走った。いい加減肉まんを捨てろと言いたくなりたくなったが、そんなのは耳に入らない。
 結局、眞深美は自分が隠れていた場所の裏がゲートボールのコートで、多くの爺さま婆さまに涙を流されていることに最後まで気付いていなかった。


 ぐぎゅるるるる〜…!ぐびご!
 妙にはしたない音ではあるが、別に浣腸されたわけではない。これらは眞深美の腹の虫だ。さっきまでどうってことなかったというのに、どういうわけか空腹が激しくなってしまっていた。まぁ、ぶっちゃけた話、原因は衛なわけだが、今更恨んでどうなるものでもなく、あんな所に水溜りがあったのも偶然に偶然が重なったものと思わなければならないわけだ。
 それはそれでムカつく内容だったりするのだが…
 ぐぼぼ!
 眞深美は自身の腹を強く抑える。腹の虫ごときが他の人たちに聞こえることなど到底ありえないわけだが、我ながら情けないやら恥ずかしいやらで…
「ホント…洒落にならないって…」
 思わず口に出てしまい、ハッとして口を押さえるが、小娘の独り言など誰も耳を傾けようとはしていなかった。とはいっても、彼女にとってそういう問題というものじゃないのだろうが。
 そっれにしても、さっきという本当に自分はついていない。この島に到着した時も、いきなり何かに撥ねられるし、なんだっなんだっての一体…
 口には出さないだけで内心では色んなことを考えながら道を歩く眞深美。
 ここは二丁目の商店街。眞深美はほとんど気付かない程度の上り坂を1人トボトボと歩いていて……ふと足を止めた。
 あれ?あの髪型、どっかで見た覚えが…?
 ここは航だけでなく、妹たちもよく利用している島1番の本屋さんであるが、その店内の本棚の向こう側に変に飛び出した一本髪が見えた。
 知りうる限り、あんな妙ちきりんな髪型の持ち主は1人しかいない。
 可憐だ。下から数えて7番目にあたる航の妹。容姿端麗の器量よし。他人である自分から見れば多少、兄に甘えているところがあるかもしれないが、それも可愛さを引き立たせている要素と数えられるだろう。
 眞深美が思うに、彼女は妹たちの中でも意外とリーダーシップを持った子だ。妹たちの中心にいるのは基本的には千影や咲耶だが、そうでない時は彼女がまとめ役を買って出たりする時もある。纏め役は自分になどとても真似できるものではないため、意外な一面もあるものだと思う眞深美であるが、そんなあの子でも学校帰りに寄り道なんてするものなのだなぁと、さらに印象が変わる。不思議な親近感が沸いてくるものだ。
 それにしても…一体何を読んでいるというのだろう?この位置からだと何を読んでいるのかまでは認識できない、本棚のジャンル別けの立て札もここからじゃ意味を果たしてはくれないようだ。
 やむを得ず、眞深美は店内に入って確かめることにした。入った際に聞こえる「いらっしゃいませ」もアンケートの勧誘も彼女にかかれば無いようなもの…
 目標はただターゲットのみ、眞深美まっしぐら!
 そして…眞深美は即座に逆走を始めた。

 可憐は悩んでいた。欲しい本があったのだ。
 今日は彼女が毎月購読している『やおいDX文庫』最新号の発売日。だというのに、肝心な時にお財布の中身が今日の夕飯分(ちなみにケンチン汁。もちろん十三人前)しかないのだ。
 知っている人は知っているだろうが、『やおいDX文庫』というのは男同士の恋愛を描いた漫画ばかりを載せている漫画雑誌。手っ取り早く言うとハードゲイの集大成であった。
 誰も知らない…つーかむしろ知られちゃいけないことであるが、ホモ漫画集めは彼女の隠れた趣味だ。小5の頃、友達に勧められて試しに読んでみたら、その予想もしなかった面白さにすっかりハマってしまったという、しょーもない話がその理由で、今じゃ勧めてきた友達よりも熱狂的なのではないだろうか?
 さすがにドラマCDだのパソコンゲームだのには手を出してはいないが、それでも好きな漫画家さんのサイン会には必ず行っていたし、漫画も小説もタンス一杯分は持っている。オタクとかではなく、純粋に好きなのだ。
 そしてこの漫画雑誌は、そんな可憐が特に愛読している雑誌なのであった。マニアックな雑誌なため、てっきりこの島には無いものと諦めていたのだが、まさか置いてあるとは…!?
 しかし、だからこそ買い逃すわけには行かない、もしもここで買い逃したら自分はどうすれば良いというのだ?店員さんに「『やおいDX文庫』の予約したいんですけど…?」とか言えってのか?そんなこと当然出来るわけがない!?ただでさえ家の中ではベッドや机の下に大量のホモ漫画小説を隠していてヒヤヒヤの毎日を送っているというのに、これ以上心労を増やせるか!?
 ………え〜っと、じゃあ、つまりどうしろと?
 こうやって迷い続けて早20分、さすがに怪しい奴扱いされてきてるんじゃないかな?などと首を傾げる可憐であったが、心配するなそう思う5分ぐらい前から君は十分『怪しい人』だ。
 それからさらに10分後、何故か近くにあった『サイボーグクロちゃん』の単行本2冊の間に雑誌を挟んで、可憐はそれを購入した。直前に誰かがこちらを見ていたような錯覚に襲われた時はそりゃあ焦ったが、すぐに気のせいだと割り切った。
 気のせいじゃないんですけどね…
 っていうか、どうすんだよ?夕飯代?


                      ― SCENE2 眞深美、さらに奮戦す ―

 可憐の見方がさらに変わって…いや、むしろこれは塗り替えられたというべきなのではないか?しかも大幅に!?
 何はともあれ、調査の続きをしないわけにもいかず、現在はとりあえず休憩と言うことにした。5分もしたらまた動かなきゃいけないのだ。やだな〜…
 ンモゥ〜…!
 などと思いながらベンチに腰掛けていると、どっからともなく牛の鳴き声が聞こえた。
 牛?どこを見ても牧場なんて存在しないのに?それだというのに、眞深美は世界の終わりに直面したかのような慌てっぷりを披露した後、自身のポシェットを弄った。
 ポシェットなんて持っていたんだ。などという突っ込みはとことん無視!なぜならば、牧場の声の正体は眞深美のポシェットより現れし1つのモバイルパソコン。まぁ、さっき使っていた奴なのだが、それのメール着信音だったりするのだ。

 変な趣味…

「来たよ…来たよ…来ちゃったよぉぉ」
 心臓を鳴らしながらカパッと開くと、最初から電源が入っていたらしくスリープ画面から脱出をする。そして暗闇の中から顔を覗かせたのは……
 ………ポストペットだった。そう、彼女のパソコンの中では今となっては珍しいポストペットが今なお生き続けていたのだ。
 ピンク色のクマが、
 四畳半の和室で、
 仰向けになりながら、
 紐で縛られてニコニコしていた。
 ……………………………………………なんか最後の1つおかしくないか?
 とはいっても事実なのだから仕方がない。眞深美のポストペットは本当に紐で縛られ、遺棄同然の形で放置されていた。生まれつき顔が笑っている連中なだけに余計恐ろしい。
 しかも、それだけではなかったのだ。
 バガンッ!!!
 音を立ててその部屋のインテリアであった障子を突き破って、どう考えても正規のデータでなさそうな真っ黒いヒグマが、これまた今時どこにもなさそうな黒いゴミ袋を両手一杯に抱えて部屋に上がり込んできたのだ。
 それと同時に恐れおののくポストペット、必死になってもがくがそれも空しく、彼は黒ヒグマにゴミ袋を投げつけられ、その上蹴りで踏み付けを食らってしまう。
 ヒグマはそれを実行すると、満足げにその場を後にした。
 どうでも良いが、あいつは他のところでもあんなことをしているのだろうか?

 ピロリロリ〜ン♪『メールが届きました』

 届いちゃいました…
「来た来た来たぁぁ!!」
 この「来た来た来たぁぁ!!」が待ちに待っていた小包が届いた時のような気持ちだったらどれほど良かったことか…眞深美はつくづくそう思いながらキーを受信へと持っていく。
「こ、ここここ…」
 言っておくが鶏ごっこではないのであしからず、このメールに書かれていることが今後の彼女の行動原理へとなり得るのだ。緊張の1つもしよう。
「…こ、今度はどんな指令なのかしら…?」
 指令。眞深美はこのメールのことをそう呼び、現にそれっぽい内容でもある。
 ディスプレイの上にある矢印がプルプルカタカタと震えているのは、スクロールスライドパットの上の指だと思って良い。
「あぁ…」
 カタカタカタカタカタカタカタかカタカタカタ
「うぅ…」
 プルプルプルプルプルプルプルプルプル
「んぎぎぎぎぃ〜」
 ハバハバハバハバハバハバハバハバ(?)
 早くクリックしろよ!!
 気になるだろ内容が!!
「あぁ、駄目…怖くてクリックできないぃぃぃ!」
 この島に来た当初はこんなこともなかったはずなのだが、島での報告を続けているうちに向こう側の辛口索敵が段々彼女の中での恐怖の対象となってしまっていた。
 気分はまさに国語の試験を返される学生そのまんまだ。まぁ、事実彼女は中学2年生の割に文書構成能力は拙いの一言であるのだが…だからといってあんなにも酷く言わなくても良いではないか!?目的から逸れているのはどっちだっての!
 なんて悶絶している眞深美であったが、その思考回路はショート直前に急激冷却される羽目となった。
 ビュン!!バチコーン!
「ですの〜!♪?」
 右耳に轟く衝撃。吹きすさぶ一陣の風。そして遥か後方で聞こえる鈍い衝突音、謎(?)の悲鳴。
 全ての正体は前方25mほど前を見た時に判明した。
「おいおい、何やってんだよ!?」
「いや、思った以上に勢いが凄くてさ…」
「オー!アレガジャパニーズサッカーデスカ!?」
 小学生が数人いた。なんか1人言語が逸脱しているところから見て、外国のお友達にサッカーを見せてあげていたみたいだが、あの様子じゃ変な勘違いをされてしまいそうだ…
 っで、眞深美はやっぱり青ざめていた。
 ……………あそこから蹴ってあの威力か…なんだか既にあの子の将来の選択肢が激減したような気がしてきたな…
 ここで頬から血でも出ていようものなら、気絶は免れそうもないのだろうが、運良くそれもなかった。
 その代わり、
「ん?」
 眞深美はディスプレイを見てさらに驚愕した。
「ひょええええええ!さっきの拍子にクリックしちゃってるぅぅぅぅ!!」
 ディスプレイには『No4のその後の移行を知りたい。それとターゲットの発見の報告を待つ』という短くも簡潔な一文が打ち込まれていた。
 …返信しなきゃ駄目なんだろうなぁ。眞深美はしぶしぶながらにそう思い、多少の造反をしてそれなりにマシな文章をしたため返信をした。
 その後、彼女が早々にその場を後にしたのは言うまでもない話なのだが、何か肝心なことを忘れているような気がするのは、やはり気のせいだろうか?


 歩きに歩いた。
 とにかく歩いた。意味もなく歩いた。
 その結果がこれだ。
 「星見ヶ丘西学園」と書かれた看板。果ての霞む校庭。そこに構える城のような校舎…
「戻ってきちまったよ…」
 海神の人間を探し続けること早2時間とちょっと。眞深美は迷った挙句、星見ヶ丘西学園まで来てしまっていた。
 しかし、捜査の基本は第一発見現場であるとはよく言ったものだが、まさか考えもしなかったというのにそこへと辿り付いてしまったということを考えると、自分はそれなりに捜査のプロなのかもしれない。眞深美は一瞬ながらにそう考えた。
 星見ヶ丘西学園が第一発見現場などではないということは百も承知だったが、とにかくそういうことにした。
 自分がちっとも凄くないこともわかっていたが、とにかくそういうことにした。
 そう思わないとやってられないから。
 そんなわけで星見ヶ丘西学園の周り、ちなみに現在は中庭をトボトボフラフラと歩いていた眞深美であったが、急遽草むらの中に飛び込む用事が出来た。
 ターゲットbRとbP1の花穂と春歌がいたのだ。中庭でもとくに日当たりの良い場所にシートをひいて、その上でお弁当を広げていた。
 なぜこの2人だけお弁当?と思う人も多いだろうが、理由は簡単。ただ単にこの2人だけ皆と違って部活が長いからだ。おそらく終了後のお茶になるものでも盛られているのだろう。
 っつうかまた食べ物ネタかよ!?眞深美は空腹覚悟で草むらからその様子を見ていた聞いていた。
 目の方は角度的におかずまで見ることはできないが、そこら辺はどうってこともないだろう。春歌の隣に置かれている妙に細長い袋は気にするべきなのだろうが、とりあえずはどうってことはない。
 耳の方はこの距離からだと微妙に聞きづらいがそこら辺は気合を入れた。
 そしてその成果として会話を聞くことが出来た。
「それにしても、珍しいね。春歌ちゃんが『花降乙女』を学校に持ってくるなんて」
「顧問の老子様に話したところ、ぜひ見せてくれと言われてしまいまして…まさかこの薙刀の存在を知っておられたなんて、未だに信じられませんわ」
「そんなに凄い薙刀だったんだ…」
「えぇ、それはもう」
 どうやら聞いた通りの話をしているようだ。どうやらあの袋には春歌秘蔵の薙刀が入っているようだ。
 そっれにしても、あの薙刀は本当にナンなのだろう?短い期間ではあるが真剣に細かいところまで(本当か?)調べてきたというのに、未だに名前ぐらいしかわかっていない。
 島に来るときも、塩風を考慮して宅急便を使っていたから、あれが彼女にとってよほど大切なものなのだろうということは良くわかるのだけど…
「どんなものなの?」
「えっ!?そ、それは…」
 花穂ちゃんナイス!眞深美、内心でガッツポーズ!これであの薙刀の秘密が解明される!さすがの彼女でも、可愛い妹さんに頼まれては言わないわけにもいくまいて。
「あ、あの〜…」
「うんうん」
 春歌は戸惑っている、よしいいぞ花穂。そのまま押し倒せ!
 っと、眞深美が思った瞬間、彼女の体は聞きたいがあまりに前へと倒れていた。それが草むらを揺することになることに彼女が気付いたのは、全てが終わってからだった。
 ガサガ…
「曲者!?」
 草むらが声を上げた刹那、いままで戸惑っていた春歌の目は鋭利な刃物以上に鋭くなり、逆に興味津々といった目をしていた花穂は何が起こったのかわからず目を丸くしてしまった。
 そして眞深美はというと…
「はっ!!」
 春歌はすぐ近くに置いておいた『花降乙女』を手に取り、袋の麻紐を解くのと、包まれていた薙刀を一気に滑らせるのとをほぼ同時に行った。
 滑らせた薙刀はロケットパンチのごとく眞深美のいる草むらへと空を切っていき…
 バサァァァァァァン!!!
 刃が思いっきり草を掻き分けたところで、春歌は薙刀の柄の一番端を掴み取り、薙刀を空中で一文字に停止させた。
「……気のせいでしたか?」
 春歌は恐ろしく真剣…というかむしろ怖い顔で、その中空一文字の状態を保っている。花降乙女は長さだけでも4尺8寸(約220p)。重量は1貫(約3s)ある。それを片手で、しかも柄の先端を持っているというのにだ。
 それだけでも花穂は開いた口が閉まらないのだが、それよりも恐ろしいのは…
「あ、あの…春歌ちゃん…」
「はい?」
「そ、それ…本物…」
「へ?」
 花穂が薙刀を指差していることに気付き、ようやく春歌は気付いたようだ。自分の用いた薙刀が本物だということに。
「…どわぁぁぁぁぁぁぁ!すいませんですわ!?つ、つい癖で…」

 つい、じゃねえぇぇぇぇぇ!?
 眞深美の目はというと…物凄い涙目になっていた。
 とはいっても、振り下ろしたら実際に斬れる真剣の腹が、脳天でヒンヤリとした感触を漂わせていれば誰だって涙目にはなる。つーか泣く。それでも泣かずに踏ん張っただけでも彼女は偉い。もとより泣いたら斬られるのではないかという恐怖心のもとでなしえた業なのであるが。
 春歌の『曲者』発言と同時に、眞深美は本能的な反射神経でそれを間一髪避けたまでは良かったのだが。後一歩反応が遅かったら自分は…そう考えた時点ですっかり腰が抜けてしまった。
 その真剣がゆっくりと自分の頭から離れていく。そして後ろから聞こえてくる声、
「良かったですわ。血はついていないから、やはり気のせいだったようですわね」
 良かないっての…
 眞深美はなんとかして草むらを脱出しようと這い蹲って移動を続けた。
 も、もう嫌…この連中に付き合ってたら命がいくつあっても足りない気がしてきた…とりあえず一旦帰って…………………ん…?…帰る……そうだ…!!
 何か閃いたらしい眞深美であったが、腰が治らないことには実行は程遠いのだろうな…


 最初からこうすれば良かったのだ。
 ウェルカムハウスの裏手にある(またしても)草むらの中で眞深美は双眼鏡片手にうつ伏せになっていた。この部分は海に面しているため崖になっており、そのため近づいちゃいけないことになっているのだ。
 なんで眞深美がそんなことを知っているのかということは放っておくとしても、なるほどここならほとんどの妹が近づいてこない。
 我ながら良いことを考え付いたものだ。などと誰もいないのを良いことに自画自賛。しかし、こんな方法があるのなら、なぜ最初からそうしなかったのか、そっちのほうが疑問なのだが…
「さってと、後は誰かが帰ってくるのを待つばかり…気の長い作業だけど、ここだったら見つかる心配はほぼ百%…」
「おや、誰か…そこにいるの…かい…?」
「違ったぁぁぁぁ!?」
 油断していただけに、眞深美は口から心臓が飛び出しそうになった。
 上から下までオールブラック、紫の髪を不思議に束ねたやや垂れ目のフェイス。眞深美の真後ろに立っていたのは千影だった。妹の中では最年長であり、面倒見が良ければ気立ても良い優しいお姉ちゃんだ。
 だが、ちょっとばかり電波が入っているところがあり、その辺りは誰もが文句なしに引く部分だった。
 腹這いになっている自分を見下ろしていたのは、そんな危ない一面を持っている人間であり、煽りで見た千影は異様なまでに恐ろしい印象を持っていた。
 こ、殺される…!?そんな風に思えてしまい危うく小便をちびりそうになったが、肩に掛けている釣具を見た途端に恐怖感は一気に減少していった。どうやら(っというか当然)千影に殺意などはないようだ。
「どうしたと…いうんだい…?こんな所にいては………危ない……よ」
 そう言いながらも千影は崖の近くで腰を下ろし、肩に掛けていた釣具を隣に下ろした。
「あのぉ…貴方はその危ない所で何を?」
 恐る恐る尋ねる眞深美だったが、返事は案外すぐに返ってきた。
「ん…釣りをしているのだが…?」
 さすがにこれがチェロを弾こうとしているとは思えないだろう?あまりにも当たり前のことを訊かれてしまい、多少戸惑い雰囲気の千影。
「あ、いや…そ、そうですよね。アハ、アハハハハハ」
 眞深美の怪しさはさらに倍増。

 眞深美を含め知らない人が多い事実なのだが、『釣り』は数多くある千影の趣味の中でもかなり上位に位置するものだった。大好きなミュージシャンのMDを聴きながら糸を垂らす、特に海釣りは彼女の最大のお気に入りで、プロミストアイランドにやって来てからはほぼ日課になっているといっても過言ではなかった。
 暗い部屋の中で占いばかりしているイメージが強い千影だが、彼女は皆が思っている以上にアウトドア派だ。釣り場を探して山奥まで足を運んだことなんて何度もあるし、中学時代は友達と一緒によく山登りやキャンプをしたことだってある。
 もちろん、読書やら神話伝承研究を行っている時に比べると費やしている時間は歴然だが、そんな意外な一面のため、彼女は案外衛と話が合ったりするのだ。
 ……なんだか、余計キャラがわからなくなってしまったが、この裏の崖はそんな彼女が見つけた数少ない穴場であった。
 千影は持参してきた折りたたみ式の座椅子に腰掛けて、釣竿を軽くしならせて糸を放った。
「ここは…今までにないくらい……当たりが良くて…ね、一番…小さい奴でも……雑魚と呼べないのばかり…さ。確かに…足場が良いとは…言えないけど……」
 さっきの眞深美の質問の延長だろうか、だが千影は何だか楽しそうな口ぶりで話してくれた。そこにさっきの恐ろしい印象はどこにもない。
 オカルト系大好きな魔女っぽい女、という今までの眞深美の考えは見事に払拭された。こうやって面と向かって話してみれば、こんなにも優しそうな人だったなんて…
「…まあ、私の田舎にあった……山間の渓流と…比べてしまっては……いけない…がね…あそこは………………………………あれ?そういえば……………」
 華麗ともいえるリール捌きを見せながら、千影はふと言葉を止めた。
「さっきから…私ばかり……喋ってしまった…が、君は…我が家に何か…用事…でも?…………」
 …………………っあ!
 そういえばすっかり話し込んでしまったが、眞深美はまだ自分の素性さえ明かしていなかった。
「え、あ、いや、その、なんつーか…」
 しかし、明かすわけにもいかないのが彼女の宿命。そこを千影に突かれてしまっては手の打ちようがないではないか。
 千影は肩越しにこちらを睨んできた。
「まさか………何か…良からぬことでも……企んでいるのでは…ないかい?」
 その時の千影の表情からは、さっきまでの優しさなどは一mmも見つけることはできなかった。
 ほんの数秒前は、『恐ろしい印象はどこにもない』なんて言っていたりもしたが、今となっては『恐ろしい印象しかない』といったほうが正しいのかもしれない。というか絶対そうだ。
 や、ややややや、やっぱりこの人たちとは関わらない方が良かったんだぁぁ!航さんの妹だって聞いたから変わり者なのかとは思ってたけど、まさかこんなに命懸けだったなんて…
 眞深美は今度こそ本泣きになりながらも、一目散にその場を走り去っていった。
 そして、前方にいた誰かと激突した。
「あ、ごめんなさ…」
 咄嗟に頭を上げた眞深美であったが、言葉が最後まで出ることはなかった。
 そこで自分を見下ろしていたのは、No1の海神航当人であった。どういうわけか顔面にボールの痕を残したターゲットNo8白雪を担いでいる。さらにそれだけではなく、その後ろには雛子、亞里亞の末っ子コンビと、さっきお世話になったばかりの花穂と春歌もいるではないか!?
 顔が真っ赤になっていく実感がはっきりと伝わってくるなか、彼女の脳味噌に航の言葉が進入してくる。
「あの…君は…?」


                     ― SCENE3 そして妹がもう1人 ―

 航が路上にぶっ倒れていた白雪を発見したのは、花穂と春歌の2人とも合流して少し歩いてからだった。もちろん航は学校にいたわけではない。一昔前までは学校を暇つぶしの友としていた彼であるが、今となってはそんなことをすることもなく、妹たちと色々やったりしたりの楽しい放課後を送っていた。
 今の今まで、彼は雛子と亞里亞の末っ子コンビと一緒に喫茶店でお茶を飲んでいたのだ。3人揃って店内でヒーロー戦隊ものの話を延々とやっていたら、こんな時間になってしまったというわけだ。
 その帰り道、部活帰りで一緒になったという花穂アンド春歌に出会い、さらに大人数で歩いていたら、何故か路上で倒れている白雪を見つけてしまったと、そういうことだ。
 そして今に至る。
 どういうわけか知らないが、ウェルカムハウス前で見知らぬ女の子にアタックをされてしまった。ルビー色の髪を両端で縛っている少女で、背の高さはギリギリ150、大体自分の胸の辺り。この衝突事故自体、彼女の予期せぬ出来事だったらしく、目をまん丸にして、いかにも「何が起こった!?」といった顔でこちらを見ている。
 あれ?航は自身の脳裏に何かが過ぎった気がした。
 彼女の顔をどこかで見たことがあるような…それも物凄く身近で…
 記憶の中にはこんなに赤い髪の少女との思い出などはないというのに…この親近感はなんだろう?
 そんな気持ちになったからなのか、それともただ単に気になったからなのかはわからない。どんな理由であれ、航の口からこの言葉が出たことに変わりはない。
 そして、意味の成立をしているとは言い難い言葉であっても、ルビーの髪の女の子には十分だった。

「あの…君は…?」
 ドクンッ!!
 一言。たったの一言だったというのに、心臓が胸を大きく叩いた。
 航さんの顔が目の前にある。そう思った瞬間、全身の血管が沸点を超えたかのように煮えくり返り、全身の振るえが止まらなくなってしまった。
 それに今は彼と自分は密着をしているではないか!大慌てで後ろへ下がるが、時すでに遅く、みるみる内に顔が真っ赤になっていく。
「あ…あの……す、すいませ…!?」
 声が裏返る。もういつの脳天から血が吹き出てもおかしくはない。
 気付かれたのか?自分だとバレてしまったのか?考えたくもないことが頭を駆け巡り、その度に体が震える、拳を握りたくてもそんな力もない。
「……裏の草むらに…いたのだが……こんなのを持って……家を見て…いたよ……」
 後ろから聞こえてくる千影の声。さらに千影の手を離れ地面へと落ちる自分の双眼鏡。
 眞深美の赤い顔は、一気に顔面蒼白へと早変わりをしてしまった。
 この場にいる全員の顔つきが変わった。航を含めターゲットとしていた5人の妹たち。そして今見られているのは自分。
 一番最初に一歩を踏み出したのは春歌だった。眞深美の双眼鏡を拾い上げ、次の瞬間には自分の肩に薙刀の刃先が乗っていた。今度は肩かよ。
「ひっ!?」
「これは一体何をしようとしていたのですか?」
 口から空気が漏れるが、それをかき消すくらい春歌の声は凛としていた。ターゲットの立場がここまで大幅に変わるだなんて予想もしていなかった。
「答えなさい!」
 薙刀の刃が一の字となり、こちらへと向けられる。
 だからといって、どう言えば良いのだ!?本音を言って許されるとは思えない、なにせ「監視していた」なのだ。そんなこと言ったら、この刃は間違いなく横へとスライドされる!しかし、ここまでの危機的状況で的確な判断ができるほど自分は器用ではない。
 奥歯がカチカチと鳴る。もちろん春歌の行動も原因の1つではあるのだが、それ以前にここまでの大人数に責め立てられるということ自体彼女は慣れていないのだ。もっとも、慣れているものなどそうはいないと思うが。
「春歌、脅しすぎだよ。それを下ろしてやってくれないか?」
 航のその言葉が辛うじて耳の中に入ってくる。その後も春歌と多少の会話があったようだが、生憎ながらそれが彼女の耳には入らなかった。とても入るような精神状況ではなかったからだ。
 少しして、眞深美の肩から薙刀が下ろされた。本来だったらここで安堵のため息が出ても良さそうなものだが、残念ながらそれはまだお預けになるらしい。
 航の視線は未だに厳しいまま、こちらへと向けられている。眞深美にとって、これが一番辛いことだった。今まで、航は自分をこんな風に見たことなどはなかったというのに…
 航の手が眞深美の肩に乗る。意識してなのか薙刀が乗せられていたのとは別の方に。眞深美はビクリと体を振るわせる。
「君が何故これで我が家を見ていたのかは、この際訊かないし、君も訊いて欲しくはないと思う。だけど、その理由の原因が僕たちにあるのだったら、僕たちは素直に君に謝罪をしよう。だから君もこんなことはやめてほしい。このまま君がこんなことを続けてしまって、原因の罪を上回ってしまったら、一方的に君が悪い立場になってしまうよ……」
 航が真剣になって人に注意の言葉を掛けている。こんな航を眞深美は初めて見た。しかし、自分の罪を戒めると同時に、自分の気持ちも考えてくれている言葉の選び方は、確かに航が人に説教をしたらこんな感じになるだろうことを納得させた。
 しかし、やはりそれでも航ではないのではないかという錯覚を起こしてしまい、眞深美は彼の話に聞き入り、多大な罪悪感が溢れてきてしまった。それでも…
「まぁ、いきなりこんな変な風に言われて、困っちゃうような気もするけどね…現に僕も段々わからなくなってきたな…」
 …それでも時折出てくる不器用な一面を見ると、やっぱり航なのだというのがわかる。
 責任感なのかな、ちょっと厳しくなってる…でも、やっぱり全然変わってない…優しい航さんのままだ…
「もうこんなことしちゃ駄目だよ!!約束できるかな?」
 まるで小さい子に戒めるかのように言う航であったが、それだけでも今の眞深美には十分通用する。
 だからこそ、眞深美は頷くことができた。
 これで前以上に調査し辛くなってしまうが、それは仕方のないことだと眞深美は思う。
 こうしてまた航の優しさに触れられたのだから、多少のリスクに文句を言うのはお門違いなのだろう。
 航の表情もだいぶ緩やかになってきた。そこが眞深美の気の緩みとも繋がったのかもしれなかった。
「よし…じゃあ…君の名前は?」
 締めとなったのだろう台詞。訊かれたその時、彼女は完全に自分の立場を忘れてしまっていた。
「はい、眞深美…」
 瞬間、眞深美は凍り付いて口に手をやった。
 し、しまったぁぁぁ!?!?!?ここまでやらかしてしまうとは…もはやギャグでも笑えたものではない。
 油断したとはいっても、まさか本当に言ってしまうなんて…
「眞深…?それが貴方の名前?」
 航の後ろにいた花穂が訊いてくる。どうやら全ての文を聞かれたわけではないようだが、それでもかなりギリギリだ。ここまで聞かれてしまって航が気付かないわけがない。
「眞深…眞深…?眞に深い…?」
 完全に聞き取られなかったのは航も同じのようだが、凄い不思議そうな顔でその名を反芻していた。
「ん…?どうしたというんだい……兄くん?」
「いや…それと似たような名前の子を知っててさ…」
 やっぱりだ!航は既に気付き始めている。
 ここまで来てこんなポンミスをしてしまうなんて…
 眞深美の目に涙が溜まる。
 自分はいつもそうだ、誰かに必要とされたときに限ってその人の期待に応えられずにしくじってばかり…今回だって、普段から話もしない『あの人』が自分を信頼してこの任を預けてくれたというのに…わざわざ学校まで変えてこの島にやってきたというのに…全てが台無しになってしまう…そして何より、航さん自身にとっても…航さんにとっても…
 どうしよう…助けて…助けて…あんちゃん…どうにかしてよ、あんちゃん…
 眞深美は涙が溜まる目を硬く瞑り、口の中だけで呪文のようにそう唱え続けた。
「あれ…ひょっとして?いや、でもそんな…」
 航が何かに気付いた表情になったのと同時だった。 眞深美が唱え続けた言葉はまさしく呪文となり形となった。
「あんちゃん…」
 眞深美の口からその単語が零れ落ちた瞬間、今度はその場にいた兄妹が凍りつく番だった。
「あ、あんちゃん…?」
「へ?」
 目を開き見上げると、航の顔は青ざめており、何かこう「勘弁してくれ」といった顔になっていた。
「ふぅ…、まだ…いたの…か…」
「へ?」
 まだいた?千影の言いたいことがいまいち理解できない眞深美。
「わ、ワタクシ、そうとは知らずなんてことを…心から謝罪をいたしますわ」
「へ?」
 なに?なんで春歌が謝るのか、眞深美はわからない。
「わぁ、花穂よりお姉さんかな?」
「へ?」
 お姉さん?いや、確かに自分は中二だけど、じゃなくて…
「わぁい、わぁい!また楽しくなるね!ヒナ嬉しいな!」
「へ?」
 何故に!?何故に自分はこんなに歓迎されてるわけ?
「亞里亞も〜…」
「へ?」
 ……いや、今のには反応することもなかったか…
 こ、こりは一体…?
 なんだなんだ?何が起こった?自分はただ「あんちゃん」と呟いてしまっただけで……………
 ……ん!ここで眞深美はあることに気がついた「あんちゃん」。その意味は「兄ちゃん」。「兄ちゃん」と書いて「あんちゃん」…そしてなによりも航は「あんちゃん」イコール「兄ちゃん」に繋がるというのを連想してしまう確立が最も高い…
 も、もしかして…ひょっとして…ま、まちゃか…
「う、うぅ〜んですの〜♪」
「あ、白雪ちゃん起きたよ!」
 例え気を失っていてもそのテンションを失っていなかった白雪が今になってようやく目を覚ました。
「ううん…狸蕎麦が808つ飛んでますの〜…………はっ!?ですの!♪?」
「おはよう、白雪ちゃん」
「あ、花穂ちゃん♪姫何がなんだか…今はどうなったんですの?」
 痛々しいボール痕の通り、どうやら脳天を猛烈に殴打したらしく、言ってることが支離滅裂になっている。
 しかし、さすが兄妹と言うべきか、航たちはそんな言葉の乱れなど気にも留めていない。
「ふむ…、白雪ちゃん……色々と大変なことに…なって…しまって……ね…」
 気にも留めていないというか、航は何か言えたような精神状況ではなかったということだろうか。白雪を負ぶったままアガアガしてて、状況説明もあったものではない。
 だから代わりに千影が白雪に言った。
「…新しい妹の…眞深ちゃん…だ。これから……皆にも…紹介しない……とね…」

「そ…」
「そんな…」
 眞深美は叫んだ。
 航も叫んだ。
 その叫びが眞深美の、いや、眞深にとってプロミストアイランドでの新たなる、もとい真の第一歩であった。
『そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??』



   海神航とその妹たちについての近況報告

 『 今日から海神航の妹になりました 
                             以上 』


   Re: 海神航とその妹たちについての近況報告

 『 …………………………は? 』




あとがき

 眞深ちゃん登場!ま・み!マ・ミ!M・A・M・I、眞深!!どうもD,B,N,TIです!!
 お待たせしました!全国375483462351人の眞深ちゃんファンの皆さん!ついについに我らが眞深ちゃんの登場でございます!!眞深ちゃん、眞深ちゃん、あぁ眞深ちゃん!私は彼女が大好きだ!ゲームでいたとしても特にマイシスにすることはないと思うけど眞深ちゃんが大好きだ!『サーティーンシスター』では攻略できるキャラになっていた眞深ちゃんが大好きだ!というわけで、『四薔薇会』さんもびっくりな眞深ちゃんストーリー開版!!ちなみに私は『四薔薇会』さんの大ファンです!コミケでは小説たくさん購入しました!サイドストーリー最高!


 ……はい、落ち着きました。どうもお久しぶりです!
 前述しまくりましたように、今回はついに眞深ちゃんが登場しました。解説交えて話すとしましょう。
 ご存知の通り、今回の眞深ちゃん登場はアニメにはありません。つまり、この『The Animation』の完全オリジナル。彼女のためだけの書き下ろしでございます!なんだが好きとか言っているわりにぞんざいな扱いしているような気がしないでもありませんが…まぁそこら辺は。根性ある子ですから。
 今回の冒頭とラストは毎度お馴染みの『燦緒へ』ではなく、眞深ちゃんの提示報告と言う形にしました。これは単純に今回の主役が眞深ちゃんだからというのが理由です。なにせ航兄ちゃん出番少なかったもんなぁ…。
 っで、さっそく登場してくる眞深ちゃんこと眞深美。アニメ番での彼女の本名ですね。今回はほぼ全編この名前でした。まぁ、眞深という名前自体彼女が即席で使っていたものですし、この名前を使って進んでいく方が今回は妥当かなと…どういう理屈だかな…
 そして突入するは、可憐の本屋イベントと千影の釣りイベント。可憐の隠れ趣味をあんなものにしたのは、スタンダードな彼女をもうちょっと強烈にしようかなという意思と、俗にいう「ブラプリ現象」が原因でしょうか?聞くところによるとこれが原因で可憐のBL好きが世間一般になっているようですね。「ブラプリ」はBLじゃないのではなかったっけ?まぁ別に良いのですが…
 千影が釣り好きというのは私の完全オリジナルです。千影に限って殺生行為はどうかとも思ったのですが、私は彼女の不思議ちゃんオーラをいかに払拭できるかに情熱をかけておりますから、『実はアウトドア派』という意外な一面を見せてみたというわけですよ。それに100%似合わないとは言い切れないでしょ?
 白雪には悪いことしたかな〜…?などと思っていたりします…にーさまたちごめんなさい!

 今回のお話、初期設定段階では眞深ちゃんを通して妹たちの日常を書いていこうと目論んでいたのですが、よく考えたらなにもこのお話を使わなくとも日常ぐらい書けるのではないかと思い、(自分に)二つ返事で却下。この兄妹を相手にする眞深ちゃんの苦労話へと変更しました。もっとも、そっちの方もしっかり書けたのかと訊かれると首を傾げてしまうのですが…日々精進!ですか? ちなみに今回が初の1話完結です。最初は前後編に分かれさせる予定だったのですが、後編として予定していたお話の内容がどうにも今のノリにマッチせず、それを他のところで使おうとした結果、今回1話のみとなりました。
 まぁ、眞深ちゃん登場という一番大事な線に影響がない以上、むしろこっちの方が正解だったのかもしれませんね。

 そういえば…いや、別にどうでも良いことなのですが、最近この小説というか『シスパラ』を見た知人に、
「君の書いてる奴さー、他のSSとかと比べるとだいぶ異色放ってるよね。内容じゃなくて文体が」
 って言われました。確かに人様と芸風が異なるかなとは思いますが…そんなに違いますかね?

 さてさて、今回も長い時間のご愛読ありがとうございました。感想、ご指摘がございましたら遠慮なくビシバシ言ってやってください。
 皆様に対する心からの愛とともに幕とさせていただきます!

                                                   D,B,N,TI
 


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